私の高校時代につくったショートショートを2編お目にかけたいと思います。晩秋のティータイムに時間つぶしにいかがでしょうか?
悲劇
「ついに殺るときが来たようだ。この日のために苦心した計画がいよいよ実行に移されるのだからな。瞬時にして吹き飛ばす破壊力、それでいて証拠は決して残さない。この時限爆弾はやつの持っている機械の電磁波に感応して爆発するようにつくられている。こいつを憎むべきあいつの研究室に忍び込んで仕掛けるのだ。爆発は午前1時にセットされている。俺の業績を横取りした卑劣な奴だが今夜ふっ飛ぶと思うと名残惜しい気もする。奴にとっては思いもかけない悲劇となるだろう」
 やがて、高性能の時限爆弾をかかえた男はかろやかに出かけて行った。誰も通らない夜道を歩きながら男はつぶやいた。
「むっ!流れ星だ。運がいい。計画は間違いなく成功するな」
 確信した男の脳裏を急速に真紅とオレンジ色に染め上げられた感覚が突き上げていった。
「即死ですね。きっと悲鳴を上げる間もなかったでしょう。しかしなぜ、こんな夜中に爆死なんかしたんでしょう、主任?」
「よくわからん。この男はダイナマイトかニトログリセリンのような爆発物を持って歩いていたんだろう。それが何かのきっかけで爆発したんだ。この男にとっては思いもつかぬ悲劇になったわけだ。考えられんことだが、流星や超新星などの磁気の影響で機械が狂ったり、爆発物が誘爆することもあるということだ。まったくこの世の中、何が災いするか分かったもんじゃない。まもなく午前1時だな。引き上げようか」
ちょうどその頃、地球から離れたある惑星上で次のような会話がなされていた。
「高性能ミサイルの調子はどうだ?」
「順調です。まもなく命中すると思われます。ですが司令、このミサイルの破壊力はどの程度のものなのでしょう?」
「それについてはよくわからない。しかし一個の惑星ぐらいなら瞬時に消滅してしまうほど強力なものだ。しかし実験とはいえ、あの惑星の住民には気の毒に思う。彼らにとっては思いもつかぬ悲劇となるしろものだが、住民の目にはただの美しい流れ星のようにしか映らんだろうからな。ところで命中は何時にセットしてある?」
「スローム12、コンマ00です。つまり、あの惑星の時間で言うと、午前1時と言うことですから、もうまもなくでしょう。・・・ほら」
好意
 地球のはるか上空を巨大な宇宙船が停泊していた。その宇宙船は、なにか興味深し気に地球をじっと観察しているように見えた。彼らは300光年の調査旅行を終えての帰還の途中、たまたま発見した地球に立ち寄ってみたのであった。
 真っ暗な船内は、さまざまな計器がはなつ光が点滅していた。「ピーン、ピーン」ときおり金属的で冷たい音がこだましている。やがて声がした。
「船長、あの惑星の分析が終わりました。水銀3%、カドミウム5%、メタンガス3%、ブタンガス3%、アンモニア2%、若干の鉛、特に大陸部に付随している細長い列島からは、大量の放射性物質さえ検出されています。しかし生物もいるようですし、問題なく文明も存続できているようです」
「なるほど、これがそのデータなのだな。すると、あの星の住民にとっては、これらの重金属類、有機水銀類はなくてはならない生活必需品であることは間違いないと思われる。そうだ、いいことを思いついたぞ!本船は長時間の調査旅行のために大量の原子燃料の置き場所に困っていたところなのだ。あの星に投下しても問題は起こるまい。これらは宇宙空間に捨てると他の星から苦情が来るし、とにかく廃棄する場所に困るやっかいな物質なのだ。しかし都合のよい惑星が見つかって何よりだ。なにしろ、あの星の住民にとっては自分たちに有益な物質が天から降り注いでくるんだからな。まったく願ったり叶ったりとはこのことだ。彼らの躍り上がって喜ぶ姿が目に浮かぶようだ」
 やがて、宇宙船の巨大な船内からカドミウム、ウラニウムといった危険でものすごく汚い宇宙の汚染物質が、細長い列島めがけて雨あられとばらまかれ出したことは言うまでもない。
注)このころ1970年代の日本は、全国各地で工場の廃液による河川の汚染が深刻化し、六価クロムなどの土壌汚染、イタイイタイ病などの汚染による癌や健康被害が取りざたされ、公害訴訟がひんぱんに起きていた時代でもありました。
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