人形の島
 〜人形の怨念と奇怪な現象がうずまく不気味な島〜
 メキシコでは、「ザ・アイランド・オブ・ザ・ドールズ」(人形島)と呼ばれている不気味な観光名所がある。メキシコシティの行政区のひとつ、ソチミルコは運河がクモの巣のように張り巡らされている。運河の中には大小の無人島が浮かんでいるが、その中のひとつにその島はある。
 この島には現在、遊覧船でなければ行くことは出来ないが、上陸してみて気がつくことは島のあちこちに、ものすごい数の朽ち果てた人形がそこかしこに散らばっていることである。何千もの人形の首、逆さになった気味の悪い人形が林立する奇怪な森を目にするとき、あなたは得体の知れぬ恐怖に圧倒されるだろう。
 その異様な光景を目にするだけで、誰もが思わず背筋の凍りつく恐怖を味わってしまう。それは人形たちの視線なのか、得体の知れぬ気味の悪い視線に背筋がゾクゾクして気分が悪くなってくる。一体、この不気味な島は誰が何の目的でつくったのだろうか?
 60年ほど前、サンタナという一人の男がこの島に移り住んだことからこの話は始まる。ふとしたことから奇妙な考えに取りつかれたサンタナは、ある日、妻とも別れ、たった一人で残りの人生をこの島で暮らすことに決めた。人間嫌いで変人の一面もあったサンタナは、こうした無人島で勝手気ままに暮らすことが自分に一番ふさわしい生き方と決めたらしい。
 ある日、この島に溺れ死んだと見られる少女の遺体が流れ着いた。少女の顔は蝋燭のように青白く、黒く長い髪が水中でゆらゆらと揺れている。
「どこかで溺れたんだろう・・・」
サンタナは墓を掘って遺体を埋め、少女の霊を供養するために人形を供えた。
 何度も寝返りをうっても眠れないある深夜、「ふふふ・・・」誰もいないはずの森の中から、少女のふくみ笑いが聞こえて来たような気がした。「鳥の声だろう」そう思って気にしなかったが、「コチコチ・・・」かすかにガラスが鳴る音がする。サンタナが思わず窓の外に目をやると、そこにはずぶぬれの少女が、暗闇からじっとこちらを見ていたのだ。
「ぎゃぁー!」あまりの恐怖にサンタナは鋭い叫び声をあげた。しかし次の瞬間そこにはもう何もなかった。遠くの森は真っ暗なシルエットのまま静まり返ったままだ。サンタナはあまりの恐ろしさで朝までまんじりとも出来なかった。だがこれ以後、さまざまな怪奇現象に悩まされることになることをサンタナは知らなかった。
 ある時など、急に背中に冷たいものがずしりと乗っかって来る奇妙な感覚に襲われたりしたことがあるし、朝、目を覚ますと、水のしたたる少女の長い髪の毛が指に絡み付いていたことも一度や二度ではなかったのだ。
「これは少女の祟りなのだ。オレは取り憑かれたらしい。供養をしなければ」
 そういうことが度重なってか、その後、サンタナはどこからか流れてくる人形たちを拾い上げては、祭壇をつくって少女の魂を供養することにした。
 運河に流れる人形を探したり、近くのゴミ捨て場に行ってうち捨てられた人形を漁ったりもした。そうして集めて来た人形を、ひたすら木々にぶら下げるのである。それは少女の霊を慰めるためなのか、あるいは悪霊を追い払うためなのか、次第にごっちゃになって来た。目的はあいまいになり、ただひたすら人形を集めることだけに没頭し続けるのである。
 しかしこの頃、半分狂気のまじり始めていたサンタナの頭の中ではもうどうでもいいことだった。そして50年間、一日も休まずこの気味の悪い作業に従事しつづけたのであった。
 その結果、世にも奇怪で気味の悪い島ができあがったのである。サンタナの集めた人形の数は数千体以上にものぼるという。
 だが2001年、この不気味な島の唯一の主、サンタナは少女の遺体が流れ着いた同じ場所で奇怪な死に方をした。発見された時、彼の遺体のそばには古い人形が長い髪をユラユラとからませて遺体に寄り添っていたという。
 それ以後、人々はあの島には人形の怨念が渦巻いている。少女の亡霊がさまよっているなどという気味の悪いうわさをするようになった。
 現在、この島は人形の島と呼ばれ、怖いもの見たさに集まる人々の観光スポットになっているということだ。
 昔から、人形には不気味で不思議な力が宿ると言われている。それは生前、人形を愛するがゆえに、持ち主の魂が未知のエネルギーとなって人形に取りついた結果なのであろうか?
 サンタナの人形島の話と言い、お菊人形の話と言い、奇々怪々な現象が頻繁に起こるのもそういうわけかもしれない。
 あなたの家にも人形があることと思う。人形はいつも決まった場所にきちんと置かれていて何にも変化していないように見える。しかし一度、よく見てほしい。表情が変化してないだろうか? 顔が変形したり、髪が伸びたり目元がおかしくなっていないだろうか?
 人形はただ黙っているだけで、じっとあなたを観察しているだけなのかもしれない。本当はあなたが寝静まった真夜中、真っ暗い部屋の中で、人形がひとりでに動き、あなたの回りをグルグル歩き回ったり、寝顔をのぞき込んでケラケラ笑っているかもしれないのだ。
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