人体自然発火現象
〜人体が瞬間的溶鉱炉になる謎〜

 生身の人間が突然、炎をあげて火だるまとなり、またたくまに灰になってしまうという不可解な死亡事件は数百年前より記録されている。しかし、それがなぜ起るのか、詳しいことは何らわかっていない。

 古代社会では、火や雷で死ぬ人間は、忌わしい犯罪を犯したがための神が下した天罰であると信じられていた。 近世に入ると、自然発火で死ぬ人間は、皆大酒飲みで体にアルコールがしみ込んでいるからだと考えられていた。

 しかし、自然発火によって死んだ犠牲者の多くは、ごく普通の人々であり何の罪もなく、身に覚えのないのにかかわらず、かくも業火による残忍な死刑宣告を下されたのである。黒焦げになった被害者の骨を分析しても、ガソリンのような液体をかけられた痕跡もなく、あらゆる科学的捜査がなされても、納得のいく理由がつかめずいまだ謎のままである。

 自然発火による不可解な焼死事件とはいかなるものだろうか?
* 報告される奇怪な事件の数々 *
 1930年代には、ダンス中に突然、猛火に包まれて焼死するという不可解な事件が2件報告されている。どちらも犠牲者は若い女性で、大勢の目撃者の前で、突然、背中と胸あたりから火を吹き、たちまち全身青白い炎に包まれるや否や、床にうずくまったままわずか数分たらずの間に一握りの灰と化してしまうという痛ましいものであった。周囲にいた人々は、どうする事も出来ず何ら為すすべもなかった。
 1951年には、67才のリーザー夫人が 、ひじ掛け椅子にもたれたまま謎の焼死を遂げるという奇怪な事件がおきた。
 その遺体は焼死体というよりは、黒焦げになった塊りとも呼べるもので、周囲には焼け焦げた骨の一部と肝臓らしきもの、コブシ大に縮んだ頭蓋骨などが散乱していた。
 発見された時は、部屋はものすごい熱風に満たされ、ドアのノブは高熱で触れることも出来ない状態だった。
 また、なんとも不思議なことには、ひじ掛け椅子の背後の壁は全く焦げもせず、すぐ近くにある新聞紙の束は燃えた形跡はなかった。
 そして、スリッパをはいたままの夫人の左足首だけは、全く焼けもせず生々しい状態でころがっていたのである。
自然発火による死亡現場
 後の検死によると、遺体がこのような状態になるには、摂氏1400度という高熱で数時間以上も焼却し続けることが必要で、さらに、焼け残ったものを粉々にしなければ、ここまで起こり得ないということであった。
 同時期、夏のある暑い昼下がりのこと。湖で家族と一緒にボートに乗っていた夫人の体が、突如燃え上がり夫と子供の目の前でたちまち灰と化してしまった事件もある。業火の中で焼き尽くされていく夫人が、黒焦げの骨になっていくのを家族はどうすることも出来なかったという。
 1919年には、当時の著名な作家が腰から下が黒焦げの状態になって発見されている。この場合もおかしなことに、腰から上は無傷のままで、着ていた衣類には焦げた形跡すらなかったという。
 それより以前、パリでもある婦人が黒焦げの焼死体となって発見されている。その遺体は、まるで溶鉱炉の中で焼かれたように思えるほどで、男女の識別さえ困難で、かろうじて残された一部の歯や骨から婦人と確認されたほどであった。その部屋は火の気もなく、他の可燃物はいっさい燃えていず、遺体のあった場所だけが少し焦げている程度で実に不可解としか言いようがなかった。
 ルーマニアのある街では、暖炉の前で一人くつろいでいた85歳の老人の頭部が、焼け溶けて拳大の塊ほどにすぼんでしまうという気味の悪い事件が起きた。頭部以外はまったく焼けておらず、揺り椅子に座ったままの恰好であり何とも不気味な事件だった。
 車に乗ったまま黒焦げになって死んだ人の例も数多く報告されている。ヨークシャーのある建築業者は、車に乗って建築現場を見回っている最中にこの災難に遭遇した。車のガソリンタンクにはガソリンが満杯であった状態にもかかわらず、高熱で燃え尽きたのは人間だけという奇妙な事件であった。
 また、デトロイトでは、駐車中の車の中で、人が突如火だるまとなって焼死するという事件も起きている。検死の結果、死亡当時は車内の温度は、ダッシュボードの一部が溶けてしまうほどのものすごい高温状態になっていたことが判明した。しかし、それにもかかわらず、犠牲者の衣服は焦げた跡さえ見られなかったのである。
* 人体が溶鉱炉になる原因 *
 ・・・以上、近年になってこの現象は、記録されているだけでも400件以上が報告されており、このような不可解な焼死事件は枚挙に暇ない。恐らくこの種の事件は、世界中で何百年も前から繰り返し起きていたに違いないと思われている。
 奇妙なことに、これらの自然発火による不可解な死亡事件に共通している箇所は、人間の肉体だけが瞬時に焼き尽きてしまうという点であろう。それはあたかも、人体内部から出火したとしか思えないものである。しかも、その火力はプラスチックもドロドロに溶けてしまうほどの高温で、まるで、強烈な溶鉱炉の中で焼かれたようなすさまじいものなのである。
 そして、不思議なことに、燃えやすいはずの衣服や周辺の物は何ら焼けることもなく、少しの焦げめがつく程度で済んでいるというのも全く説明のつかない現象である。
 調査の結果、自然発火による犠牲者は年令、男女に関係なく誰にでも、どこにでも起るということが判明した。
 さらに、詳しく調べていくと、犠牲者は中年以上の年輩の女性に多く見られ、とりわけ厚着をし衛生状態に無関心な人に多いということも判明した。
自然発火による死亡現場。遺体の上にあった紙類は一切燃えていないのがわかる。
 そして、奇妙な特徴として、自然発火によって死んだ人の遺体は、どれも崩壊や腐敗がひじょうに早いという点である。
そうすれば、これらの事実は何を意味しているのだろうか・・・?

ここで、あえて、2、3の仮説を考えてみることにしよう。

 人間の体は70パーセントの水分と脂肪、若干の有機物で構成されている。生体反応によって体内でメタンや水素といった可燃性ガス、燐化合物がつくり出されることは知られており、それらの条件さえ満たせば、人体がロウソクのように燃え出すということも考えられなくもない。
 特に、燐化合物は、空気に触れるだけでも発火してしまう非常に可燃性の高い物質であることが知られている。今日、アンモニアと沃素の混合物は爆薬の原料になることはよく知られているところだが、人体は沃素やアンモニアを多分に含んでいることから、こうした物質が長年による生活習慣や新陳代謝が繰り返されることなどで、体内に蓄積され燃焼しやすい体質に変化してしまうと考えるのはどうであろう?
 つまり、体が火薬の詰まったような状態になり、それに湿度や衛生上の条件と言った外的要因が加わる時、それらが引き金となって恐ろしい人体燃焼を引き起こすのである。
 このように、時間をかけて人体が燃焼しやすい体質に変化してしまうという仮説も考えられるが真実はもっと複雑なのかもしれない。
* 推測される様々な仮説 *
 また、興味ある別の仮説として、生まれつき燃えやすい体質の人間であるとか、周囲に火を発生させるような特殊な体質を持った人々が存在するという事実も忘れてはならない。
 そのような人間は、燃えている石炭を手でつかめ、燃え盛るたき火の上に寝ることさえ出来るのである。このような人間は火気のない場所でも火を発生させ、また呼び寄せることも出来ると言われている。いわゆる、火の触媒的能力を持っている人間ということであろうか。
 19世紀後半、この種のケースと思われる事件が記録として残っている。それによれば、ある屋敷内でわずか2時間あまりの間に40か所で火が吹き出したとある。出火の原因はわからずいたる箇所から火が起り、ありとあらゆる家具が燃え出したというものである。
 1922年には、カナダのある家で、不可解な出火現象が絶えまなく続き、ついには家が焼け落ちてしまったという事件もある。
 また、原因不明の火が特定の人間を執拗に追いかけ回し、最後には焼死させてしまうという事件もロンドンで記録されている。
 これらの事件は、どちらのケースもその家で女中として働いていた若い女性が関与をしていたとみられている。恐らく、無意識下におけるポルターガイストが原因ではないかと思われるのだ。物が部屋の中を飛び動き、思いもかけぬ場所で火があがることはポルターガイストにありがちな現象なのである。

 多分、女中として、かなり過酷な労働を強いられている若い女性の抑圧された潜在意識が、ポルターガイストの引き金となったのではないだろうか?

 超自然的な現象が原因とされるもう一つの仮説は、球電現象と呼ばれるものであろう。
 球電とは大気プラズマの一種といわれ、雷が地上で数十分もの間、エネルギーの塊となってとどまるものである。これは、日本でも古来より鬼火、狐火、火の玉などと呼ばれている発光現象で、西洋では幽霊火、ルミナス・サーペントなどと呼ばれているらしい。
鬼火出現を描いた19世紀の絵
 この発光球体は、雷に匹敵するエネルギーがつまっているので、誤ってこれに触れようものなら、人体であれば瞬時に燃え尽きる危険性がある。球電は非常に珍しい自然現象ではあるが、条件さえ整えばどこにでも出現すると言われる。
 大気プラズマが原因で起るとされるミステリー・サークルは、イギリスで圧倒的に多く報告されているが、自然発火による焼死事件もこの国に多いことから、何か関係があるのかもしれない。
 イギリス・スコットランド地方は大気がイオン化されやすく、それが原因で、これらの超自然現象が発生しやすい諸条件をそろえているとも言われているようだ。
 このように、普通は燃えるはずのない人体が、あたかも溶鉱炉のように高温で溶けるように焼けてしまう不可解な事件には、様々な理由が考えられているが、どれもすべてに当てはまるものではない。
今のところ科学的な検証による答えが待たれる段階と言えそうだ。
トップページへ
アクセスカウンター

inserted by FC2 system