ツングースカの大爆発 
〜宇宙から飛来した謎の物体と地球滅亡のシナリオ〜
* 突如起きた想像を絶する大爆発 *
 1908年6月30日、ロシアは数百年つづいた専制君主に対する不満が噴出し革命の気運が高まっていた。人々は長らく虐げられた身分から解放され、社会主義という夢と希望にあふれたユートピアがまもなく実現するだろうと本気で考えていた。しかし、モスクワから遠くはなれたところに住む農夫のセリョーモフにとって、革命とか社会制度などは別世界のできごとで、自分たちの生活には何の関係もないことだった。やがて東の大地に朝陽が昇り始め、さわやかな陽光が差し込んでくる時刻になった。
「今日からそろそろ小麦の刈り取りをはじめにゃなるまい」彼は仕事に行く前の朝の一服としてタバコに火をつけようとしていた。そういう矢先にその事件は起きた。
 突如、東の地平線のかなたに目のくらむような閃光が発し、東の空一面が火の玉でゆらゆらとも燃え上がったのだ。次の瞬間、すさまじい光で目がくらんだと思うと世の中がひっくり返るような大音響が起こった。
 身体全体がカッとなって熱い感触を感じ、シャツがズタズタになってくすぶり出した。急いでシャツを脱ぎ捨てようとすると、家がガタガタ揺れ出し、バラバラと屋根のかけらが降って来た。回りの木々が大きく揺れたと思った次の瞬間、すさまじい爆風が押し寄せて来た。セリョーモフは爆風を受けてもんどり打ってひっくり返った。何がなんだかわからぬまま、急に視界が真っ暗になり彼は意識を失った。
 しかし彼は運がよかった。もう少し爆心地に近ければ家もろとも跡形もなく蒸発していたであろう。事実、爆心地では樹木のほとんどは瞬時に燃え尽き、500頭のトナカイは全部黒こげになって死んでしまったのだ。ちょっと離れた(と言っても1千キロ以上も離れているが)場所でも家の窓ガラスがすべて割れ、そこら中のものが落ちて粉々にくだけ散った。
 この爆発の衝撃は世界の各地でも記録された。
 爆心地から立ち上った巨大なキノコ雲は数百km離れた場所からも目撃されたし、天をも轟かす爆発音は千キロ離れた場所でも聞こえた。
 衝撃波は地球をほぼ2周した。ロンドンでは真夜中に新聞を読めるほど明るかったと言われている。
* 壮絶な大破壊の跡 *
 この恐るべき破壊は一体何が原因だったのだろうか? しかし、当時は第一次大戦勃発やロシア革命が起きるやらで、ごった返ししており、とてもこの調査をするどころではなかった。戦後の混乱がようやく収まった12年後の1930年、ソビエト科学アカデミーは科学者を中心とする調査隊を現地に派遣した。爆発はシベリアの奥地で、沼地と原生林を突破せねばならず、到達するだけでもひじょうな難航をきわめた。
 ようやく爆心地らしき場所に到着してみると、あまりに奇怪な光景に調査隊の人々は呆然として立ち尽くしてしまった。爆心地と思われる部分では、数えきれないほどの樹木が電信棒のように直立したまま立ち枯れしており、それより半径20キロメートル以上の範囲では、樹木はすべて地面からひきちぎられて、放射状になってなぎ倒されていたのだ。それは何か巨大で恐ろしい一撃でマッチ棒がふりはらわれたように見えた。
 大爆発の原因として調査隊の誰もが考えていたのは巨大な隕石の落下である。
 その結果おきた爆発は人類史上最大の規模であり、広島型原爆の1千倍と推測された。
 とにかく2千平方キロメートル内にある大木8千万本がことごとくなぎ倒されていたのだ。
 しかし徹底した捜索にもかかわらず現場からは隕石の痕跡が見つからなかった。そのため、多くの科学者はエンケ彗星のかけらが衝突したのではないかと結論づけた。エンケ彗星は3.3年の周期で太陽の回りを公転している彗星で、その主成分は主に氷でできており、爆発すると蒸発して痕跡を残さない。
 さらにこの爆発は、周辺の生物にも奇妙な影響を与えていることが判明した。爆発で生き残った樹木は、異常な早さで成長していたのである。さらに爆発地からは、突然変異で生まれたと考えられる新種のアリや昆虫類がいくつも発見されている。
* 何が地球に衝突したのか? *
 爆心地から突然変異が起きた事実や、巨大なキノコ雲が生じたことなどから、核燃料を動力とするエイリアンの宇宙船が宇宙から飛来した際、事故を起こして爆発したと考える学者もいた。またある学者は、宇宙空間にあった反物質が地球の大気圏に接触して大爆発したのではないかとも考えた。さらにある学者は、マイクロサイズのブラックホールが地球に衝突したのだと主張した。
 しかし最近では隕石が衝突したという見方が有力視されている。クレーターがないのはそのわずか上空で爆発をおこし、隕石自体は跡方もなくこなごなになって蒸発してしまったというのだ。破壊の規模から見て爆発した隕石の大きさは50m前後と推定される。隕石は、ある角度で大気圏に突入したが、その後分裂したため、完全な状態で地表に到達した破片はほとんどなかったのである。
 研究者らは、今後、地球近傍天体が地球に衝突するリスクを研究するためにも、破片を発見することが重要だと考えていた。ところが、1999年、イタリアの学者チームがチェコ湖がツングースカ隕石による衝突 でできた可能性があるとの論文を発表した。
 爆心地から北北西に約8km行ったところにチェコ湖という小さな湖があるが、この湖は楕円型をしており、長径が約1kmで深さは50メートルしかない。
 この小さな湖は白鳥の湖と呼ばれているらしく、いつもは水鳥や白鳥がたくさん湖面を泳ぎ回っている。
 夕暮れどきには、青く澄んだ水面に夕陽が映り、ロマンチックな景観となる湖だ。
 このチェコ湖が隕石の衝突で誕生した湖なのであれば、湖底から隕石の破片が発見されるだろう。これが真実となるかどうかは、今後の湖底のボーリング調査の結果を待たねばならない。
* 考えられる人類絶滅の二つのシナリオ *
 ツングースカの場合はたまたま無人の荒野に落ちたからよかったものの、もしこれが、東京上空で起きていたとしたらどうなっていたであろうか。おそらく被害は計り知れないものとなる。なにしろ広島型原爆の1千個分にも相当するのだ。死者は少なく見積もって500万人、山手線内部の建物はほぼ瞬時に壊滅することになる。しかしこれは可能性が低い話でもなく、このクラスの隕石、彗星が地球に衝突する確率は数百年に一度だというから、そうのんきにもしておられない。
 約6千万年ほど前に直径10キロほどの隕石が地球にぶつかったときは、空高く舞い上がった粉塵のために、太陽からの光線は遮断され、地球の気温は急激に下がった。このときの環境変化で生態系は大きく変化した。約2億年間も地上を支配した恐竜が絶滅し、白亜紀の大量絶滅につながったのだ。
 こうして考えられるのが人類最後の日のシナリオである。現在わが太陽系には火星と木星のあいだの軌道上に数百万個ほどの小惑星が点在している。その中でも直径10キロ以上あると思われる天体は数千個以上にものぼる。それらは火星と木星の軌道の間を回っているが、中には標準の軌道を大きく外れて特異な軌道をもつものも少なくない。
 もうひとつ、不測な事態を引き起こしかねない要素のひとつに彗星がある。彗星は超楕円軌道をもっていることが知られており、太陽に周期的に接近して遠ざかってゆくもの、あるいは宇宙の闇から飛来して二度と戻って来ないものまで含めてさまざまなタイプがある。そして一概に言えることは、惑星や恒星の重力の影響を受けてその軌道は刻一刻と変化し、不安定であるということだ。1994年7月に木星に衝突したシューメーカー・レヴィ第9彗星などは木星の引力にとらえられ軌道が変化したあげくに衝突してしまったことは記憶に新しい。
 小惑星群と彗星の関係は言わば玉突きゲームのようなものである。
 もし、小惑星や彗星が互いにぶつかったり、あるいは巨大惑星木星の引力の影響を受けて、本来のコースを逸脱し地球に向かって衝突コースをとればどうなるだろうか。
 小惑星の大きさいかんによっては即人類滅亡につながるのだ。
 第二の危険は超新星爆発であろう。超新星爆発は2、3百年に一度の割合で銀河系内で観測されている。これは太陽の数倍ほどの質量をもつ恒星が一生を終える間際に起こす大爆発である。ひとたびこれが起こると、半径50光年以内のエリアは壊滅的被害を受ける。これまでこの超新星爆発のたびに、銀河系に存在していると思われる文明をもった星が瞬時に壊滅しているだろうと想像されてきた。我々の太陽がたとえ健全であったとしても、周辺の恒星が超新星爆発を起こした場合、太陽系にも甚大な被害が予想される。

 目下のところ、地球周辺では600光年離れた位置にあるアンタレス、640光年離れたベテルギウスであろう。しかしこれらは距離があるので、地球上に若干の影響が出るぐらいですむ。だが、8.7光年先にあるシリウス、25光年先のベガが超新星爆発を起こすとなると、その強烈なガンマ線によって地球上の生物はたちまち絶滅するだろうと思われている。

 とりわけシリウスは太陽と同じ大きさの白色矮星をお供に連れている連星だけに、その危険性は高い。白色矮星が連れのシリウス本体から大量のガスをもらって、核にまで異常加熱された場合、恒星全体が大爆発を起こして、超新星爆発となることもあり得るからだ。

 超新星爆発にしろ、小惑星の地球衝突のシナリオにしろ、遠い未来のことではなくいつ起こるかもしれない災厄なのだとしたら、備えをおろそかにすることなく、常に科学技術をそういった方面にも向けておくべきであろう。

 しかし今のところ、人類はいがみ合うことしか出来ず、各自がバラバラで自分のことしか考えていないのが現状だ。万が一の災厄にそなえて、人類が一致協力し、安っぽい利害関係から脱却して、地球規模のノアの方舟をつくれる時代は果たして来るのだろうか?
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参考文献
「世界不思議物語」 Nブランデル、岡達子、野中千恵子、社会思想社
「スペース・ツアー」 金子隆一  講談社現代新書
参考にさせていただいたサイト
(ベネディクト)http://www.benedict.co.jp/Smalltalk/talk-13.htm
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