金縛り
 〜悪霊の仕業か?真夜中に突如起こる不気味な現象〜
 この言葉は、ほとんどの人が知っていることでしょう。金縛りは睡眠中にいきなり襲って来る不気味な麻痺だと言われます。身体が硬直し、手足もまったく動かなくなってしまう奇怪な現象です。この現象は世界中の人が体験するらしく、世界各国では金縛りに関する由来や言い伝えが、たくさん記録されています。
 中国では、金縛りを圧しつぶす悪魔だと呼んで恐れていました。寝ている時に何か得体の知れないものが胸元あたりに乗っかって来る感触からそう呼ばれたものでしょう。
 ニューギニアでは、樹木が自分の寿命を延ばすため、深夜の睡眠中にエキスを吸い取ろうとしているからだと考えられました。身体が硬直したように麻痺してしまうのは、その最中にたまたま目を覚ましたからなのだと考えられています。
 では、金縛りはどうして起こるのでしょうか? 近くに霊がいる時に起こるとか、不吉な場所が関係しているとか、霊が乗り移ったからだとか、いろいろ理由はあるようです。この現象を体験した人は一様に何かが近くにいる気配を感じると言います。ときには身体を触られるような気味の悪い感触さえ感じることもあるそうです。
 次に紹介するのは、金縛りにあった中学生の少女の不思議な体験談です。
 その日、親戚が自宅に泊まりに来ることになっていたので、いつもひとりで寝ている少女はその夜、母親と一緒に寝ることにしました。
 その夜は休日前ということもあり、夜遅くまで皆と楽しく過ごしました。翌日は地元を案内するということで、目覚ましをセットし布団に入ります。
 少女はこれまでにも何度も金縛りに合っていました。そのため、金縛りにあう前触れがなんとなくわかるのです。
 まず、寝静まってしばらくすると、キーンキーンと奇妙な耳鳴りがしてきます。その耳鳴りはガーンガーンという激しい音に変わり、さらに、ゴオーゴオーという爆風の音のように変化してゆくのです。最後には頭の中を木づちでなぐられたような恐ろしい感覚になります。
「あ、また、金縛りにあうな・・」彼女はまたこう直感したのですが、このときすでに身体はまったくいうことをきかず、何かにのしかかられたような感覚が全身に広がってきます。
 今までは、こんな感じで終わっていましたが、その夜だけはいつもとは違いました。何か気味の悪い気配を感じるのです。それも、背筋がゾッとするほどの悪寒でした。
「誰かがいる。誰かがわたしを見ているみたい・・・」
 少女はその方角に顔を向けようとしました。ところが、首は固まって全くいうことをききません。

 目だけを懸命に動かして、その気配のする方にゆっくり向けました。すると暗闇の中にぼんやりと青白いものが見えたのです。

 それが人の足だと分かるのに数秒ほどかかりました。二本の足がきちんとそろったまま、少女の枕元にたたずんでいたのです。
 少女はゾーッとしました。母親を呼ぼうとしましたが、声が出ません。少女は必死になって角度を変え、首をねじ曲げるようにしてその足から上を目で追いました。ゆっくり視界が上の方に広がっていきます。
 全身がぼんやり青白く光る男の人のシルエットが見えました。その男の人は、首だけニュッと曲げて少女の顔をじっと見下ろしています。会ったこともなければ、見たこともない人です。
 服装は上下うすい灰色の作業着を着ています。しかし、異常だったのはその背格好でした。下から見上げているので、はっきりとわかりませんが、身長が一メートルにも満たないのです。
 何度も金縛りにあっている少女ですが、今回のような気味の悪い経験ははじめてです。
「おかあさん・・・おかあさん・・・」のどから絞り出すように叫ぼうとしますが、恐怖で声すら出せません。頭の中でドックドックと心臓が早鐘を打っているのがわかります。
「こ、こわい、ああ、どうしよう・・・」
 少女は右に寝ている母親を見ました。すると、いつのまにか母親の顔が枕元に立っていた男の人の顔に変わっていました。布団から顔だけを出して瞬きしない目でじーっと少女を見ているのです。「うう・・・」悲鳴をあげようとするのですが、声は出ません。
 目が合ってほんの数秒間でしたが、何時間にも感じられました。恐怖で油あせが全身から吹き出してきます。目をそらせたいのですがそれすら出来ないのです。まもなく、男の人の顔がマジックミラーに写った像のようにグニャリと不気味に変形しはじめました。目と耳がねじれて口がぱっくり裂けて、気味の悪い粘土のようになっていきました。そして、ふわりと宙に浮き上がると、けむりのようになって窓からすり抜けていったのです。
 そのとたん、ようやく身体は動かせるようになりました。日頃から、金縛りに慣れていた少女も、まさかこんな怖い目に合うとは思ってもいなかったでしょう。少女が見たものは果たして何だったのでしょうか? 悪霊だったのでしょうか、それとも怖い夢を見ただけだったのでしょうか?
 とにかく、今までで一番不気味で怖い金縛りであったことだけは確かです。枕元に置いていた目覚まし時計は、きっかり二時三分で止まっていました。それは金縛りが起きた時刻と一致しています。
 少女はそれ以来、寝るときは枕元にお守りを置くようにしているということです。
 現在、金縛りは医学的には精神的ストレスから来るものとか、レム睡眠時における夢だとか言われます。
思春期の少女に圧倒的に多い現象だというのも特徴です。しかし理由はそれだけではなさそうです。
 この世には、とうてい理解できない奇妙なことがたくさんあります。金縛りもほんの一例に過ぎないと言ってもいいのかもしれません。
(K.I.レポートより)
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